真実/結城 森士
 
少年が笑った
夢の中でも笑った
「そうかもしれない」
笑ったまま
少年は夢の中

二度と醒めない世界へ
精神は溶けて
永久に失われた
その後ずっと
黒い歌を歌っているだけ
目は虚ろ



少女は呟いた
誰にも理解の出来ない
狂った言葉だった
母親は厳しく囁いた
「寝なさい」
何も覚えてない
もはや

その後ずっと
少女は喋らない
何も覚えてない
時々、理解不能の奇声と共に
泣く



俺という男が汗だくで目覚めると
体から精神が離れようとしていた
何者かは或いは自分
声の無い声は囁いた
「知らなくていいことだった」

(精神は存在しない)
(個人は幻想だ)

笑う余裕なんて無い
ただ知識を忘れようとした
膨大な真実を忘れるために

自分という真実など無い



あの子達はずっと
笑ったままなんだねぇ
目は虚ろ

耳を塞いだ時だけ聞こえてくるのは
所在無き 足音
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