やもりの首/三州生桑
壁に塗り込められてしまった!
この近在では、向かふところ敵無しの大やもりの俺様が、あらうことか漆喰の中に閉ぢ込められ、身動きがとれなくなってしまった。
このボロ家に迷ひ込んだのが運の尽きだった。
朝早く、仏間の破れ壁の中に潜り込み、夜になるのを待ってゐたのだが、俺がウトウト昼寝してる間に、この家の親父が壁を修復し始めたのには驚いた。
このままでは二度と太陽を、否、夜空を拝めなくなってしまふ。
人の気配が消えるやいなや、俺は大慌てで塗り立ての漆喰を鼻先で押してみた。
・・・しまった、もう固まり始めてやがる!
渾身の力を込めて漆喰に突っ込んでゆくと、壁からポコンと首が出たところで、ニ
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