カマキリ/杉菜 晃
 

カマキリを殺した
あんまり威張つてゐるから
縄張りでもないのに
アスフアルト道のまんなかに出て
仁王立ちになり
人を通すまいとするから

私はその夏 傷心を抱へて
祖父母の郷へ帰つて行つた
幼少を過ごした私の郷でもある
いまや過疎の村となり
無人の駅で電車を降り
山に沿つた田舎道を
うらぶれ果てて辿つて行つた
降り注ぐ日の光だけは昔と変らず
いちめん白くきらめいて
日の海となつてゐる
癒しをこんな村里の自然に求めたのは
間違つてゐたのだらうか
ふとそんな疑念が来て
それでも車輪つきの旅行鞄を
がらがら転がして進んで行つた
進み行く先に緑色の小さなもの
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