紙っぺらに漱石の顔/服部 剛
 


ひとりになった僕は
ふたりの友人と毘沙門天で待ち合わせ
小銭を賽銭箱に投げ入れた後
茶屋を探して
神楽坂から早稲田駅辺りを歩いた

友のひとりが

「ここ、夏目漱石生誕の地だよ」

と言うので立ち止まると
歩道の傍らに
細い石碑が凛と立っており
僕は思わず頭(こうべ)を垂れて
手を合わせた

ズボンのポケットに入れた僕の財布の中で
幾人かの夏目漱石が
顔を一枚に重ねるように
微笑んだ

戻る   Point(2)