「街路樹を往く人」/服部 剛
 
リルケはトルストイの家を訪ねた。
彼の家は、家庭紛争の最中であった。

( 伯爵は、握った杖を叩きつけ・・・ 

眉を顰(しか)めて玄関へと歩いて来るトルストイ。 
リルケの肩に手を置いて、
肩を並べた二人は、門を出る。 


街路樹のトンネルの中、
葉擦れの唄声と木漏れ日を浴びながら
二人は歩き続けた。 

トルストイは熱く語り続け、
リルケは只(ただ)、黙って頷(うなず)いていた。 

頭の煙突から、
絶え間なく昇る蒸気機関車の煙。
歪(いびつ)なこの世の有り様について、
胸に収まらぬ言葉達は、
炉に燃え盛る炎の内に。


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