乳房〜その1/黒田康之
 
女の脂肪は仮構だと友人はらくらくと言い放った
剥ぎ取って
愛して
悔やんでも悔やみきれない自由を
彼は
らくらくとどうしようもなく言い放った

夏の夜はすかっりと光を抱き取り
もう誰にも愛せない彼方に隠してしまったこの時間に
なみなみと注がれたビールを美味そうに
磨耗することのない喉仏をぎくしゃくと揺らしながら
彼はまるで継続された時間がそこにあるように
ぐびぐびとビールを飲んだ

何もなくなって
砂漠がここにあるようにと
植木鉢に
丁寧に
毎朝水を注ぐように
僕と彼とはビールを飲んだ
彼の
「仮構」
と言う言葉に
辞書にあるような意味があるかは知らな
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