潮騒を聴く/落合朱美
海鳴りは遥か遠くでさざめいて
波間に浮かぶ言霊たちは
いちばん美しい響きを求めて
たがいに手を伸ばしあう
砂浜に打ち上げられた巻き貝は
もはや亡骸となり果てて
右の耳にそっとあてれば
左の耳から唄が零れる
私のこの躰は 押し留めた感情は
すべて此処から生まれたのだと
潮騒は教えてくれる
けれども此処は
還る場所ではないのだとも
潮風を孕んだ砂が舞う
裸足の私はすこし心許ないけれど
この命の在るかぎり
海の言葉を聴きつづけ
歌を紡いでは書きしるす
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