帰り道/あおば
つるかわ
つり革の下には
振動する幽霊の手が
ぶらぶらしているよと
嫁のもらい手がないよと
節だらけの拳を振る
明治生まれの大伯母に
呼ばれたような気がして
リノリウムの床を
音もなく
歩いてゆく
ガラガラの電車の中には
作業着の男が
女物の傘を差して
道の方を見ている
雨が激しいから
道端に
座るわけにはいかない
端っこのカエルたちは
ヒマをもてあまし
メールで呼びだしては
明日の約束を繰り返し
リスニングルームの床を
厚くして
電車の音を遮断して
特別天然記念物のように
大人しく座っている
みたことのない
大きな目をする
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