「汚れた足」/服部 剛
は
両足首を縛る鎖に碇(いかり)を結ばれ、
両腕を広げたまま頭を垂れ、
深海の闇へと沈んでゆく
*
彼にとって、
足が萎(な)え、歩けぬ人に手を差し出すことは、
川のせせらぎが上から下へ流れることであった。
だが、日々を共に生きる「隣の人」を、
そのありのままの姿を両手で受け止めることは、
薔薇(ばら)の花が切り落とされ、
無数の棘が生えた茎を
我が胸に抱くことであった。
闇に浮く 真紅の薔薇は 彼に問う
「青年よ、汝の下に置かれた
人の足を洗うことはできるか」
闇の中で立ち尽くす青年が俯(うつむ)く顔の下に
汚れた足が、無言のまま、置かれている。
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