「汚れた足」/服部 剛
小雨の降る夜道を歩いていた。
ガラス張りの美容院の中で
シートに座る客の髪を切る女の
背中の肌が見える短いTシャツには
「 LOVE 」
という文字が書かれていた。
*
その昔、青年は
「愛」という文字には
浮(うわ)ついた白い翼が生えており、
身軽に宙を羽ばたいているように見えた。
大人になった青年には、
「愛」という文字をじっと凝視していると
涙の滲んだ瞳には
「愛」の奥に隠れた「哀(あい)」という文字が
見えていた。
「哀」の奥に隠れた「茨の冠を被(かぶ)った人」は
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