みずうみの樹/光冨郁也
 
みずうみ、の真ん中にたち、わたしはいっぽんの樹になる。
ふいていく風、わたしの身体をつきぬけ、
 腕をのばすと、せかいのかたむきから、はなたれる。
わたしの枝いっぱいの葉たちをそよがせる、
 輪郭とりんかくとがふれあう音は少女たちの笑い声。
青空を枝葉で、おおいつくすかのように、のびやかに、
 すなおに顔をあげるのは、いきるというよろこび。
やがて枝葉たちは、ゆたかな曲線をうみ、
 はなやかでもなお、つつましい色とりどりの花を咲かす。
木々をわたる鳥たちは翼をひろげて、上空をせんかいし、
 たかい声でさえずる、それはせかいへの賛歌。
みずうみ、の真ん中にたち、
 わたしはひろい森の、ただいっぽんの樹となります。
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