ラスト・ショー/しゃしゃり
見るたびにラストシーンが違うという映画が、
場末の名画座で上映されている。
だけれどそれは感傷で、
いま街のどこにも場末などなく、
洒落た銀巴里の名画座などもない。
女は赤いパラソルをさしている。
なくさないために四万円も出して買った傘だ。
でもその値札にふさわしいような雨が降ったことはない。
女には男の影がある。
さっきわかれぎわに首筋にキスをしてきた。
雨にぬれて香水にすこしアスファルトのにおいが混じっていた。
男は混み始めた快速電車にのって、
快速の止まらない駅から歩いて二十五分の家に帰っていく。
女ははがれかけたポスターをじっと見る。
まだ家に帰りたくないと思う
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)