「記憶の水溜りと祖父の手紙」 海月と雨宮一縷/海月
 
憶の水溜りは枯れているが、
 お前が見せた妻の幻影で泣いて溜めた涙で生かされている。
 ただ、それも長くは続かないだろう・・・
 今日見た夢が全てを物語っている。
 その夢は、とても居心地が良く、暖かくて、そして妻が居た。
 「妻はワシに此処に住まないか?」と勧めるがワシは断った。
 「やり残したことが在るから」と言って目が覚めた。
 残された期日は数えられる程しか残っていないだろう・・・
 お前にこの手紙を書くことが出来れば、
 残された数日も有意義なものとして過せるだろう。
 今まで、こんな老いぼれの世話をしてくれて、
 ありがとう・・・

                     親愛なる娘へ 敬具」       


物書きだった祖父にしては大雑把な内容だった
それ程にきっと時間は惜しいのだろう
この手紙の宛名は忘れた筈の私の名前が其処にあった
多分、私の名前を伝えるために祖母はやってきたのだろう
この手紙の二日後に祖父の記憶の水溜りは完全に枯れていた

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