「記憶の水溜りと祖父の手紙」 海月と雨宮一縷/海月
私の祖父は今年で八十半ばになった
少しは名の知れた人物だったが今は違う
痴呆を伴い記憶が錯乱している
記憶とは大きな水溜りであり
情報(いきること)は雨の様に降り続く中を生きること
雨が止んでしまえば
水溜りは枯れていき記憶を失う
僕らはそれを死と呼んでいる
祖父が書いた小説の一節
その時(じだい)は共鳴や共感が起きたが
今は時代に風化した
祖父は私のことを完全に忘れている
今は亡き妻の名を私にとって祖母の名で呼ぶ
私はそれを心底嫌っていた
「お前は妻の若い頃にそっくりだ」
と、子供の頃はよく言われていた
今はそんなことはな
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