「顔の無い女」 /服部 剛
 
う 

灰色の廊下の延長線上から 
顔の無い長い黒髪の女 が 
一瞬 私を見て 消えた 

中央病院の外は降り頻(しき)る雨 
生前 入院していた患者は今も 
時々雨宿りにやって来るという 

やがて訪れる病棟(びょうとう)の夜 
顔の無い女 は
余命無き患者の個室に現れ 
失意に痩(や)せた白い寝顔の傍らで 
夜明けまで
淡い子守唄を囁く 









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