「顔の無い女」 /服部 剛
 
中央病院の受付は今日も患者で溢れていた 
松葉杖をつく若者 車椅子の老婆 妊婦 マスクをした中年・・・ 

街にはスーツを着て歩く人 
キャンパスの木陰でひとり俯(うつむ)いて立つ学生 
日中のあらゆる場所で繰り広げる他愛無(たわいな)い会話の後に 
やがてそれぞれの夜は訪れる 

( 寂しい人の
( 心の闇に響く
( 救急車の赤い明滅 

今 私は 
中央病院の待合室の長椅子に腰掛け 
耳鼻科の診察室から名前が呼ばれるのを待っている 

( 耳の穴を塞(ふさ)いでいた 
( 垢(あか)は取り除かれ
( 人々の 音の無い声 を聴くだろう 
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