初夏の匂い/海月
 
上空高く飛行機は飛ぶ
二人はその下深くで手を繋ぐ
初夏の匂いがブラウスを抜けると君は言う

子供達は公園の小さな川で身体をつける
アスファルトの様な焦がれた熱を冷ます
僕らは日陰でその光景(すがた)を眺めていた


その場所去りし 君の温もり
二人の陽炎 永久に続く


君と僕は一節ずつ書き記し
ベンチの下に埋めた

何年後かにこの場所を訪れた時
一節ずつ書く約束をして別れた



その場所残り 僕の思い
一人の陽炎 天に昇る


君がいなくなった事も色褪せてしまう
時間と云う水彩絵の具
色付く頃を懐かしく思う


巡り行く季節 人の仕草
今、恋しく思う 輪廻の果て


傍に誰も居ないまま歩く
午後の陽射しに眩暈がする

手を繋ぐ人が居なくよろめき
焦がれたアスファルトに体を預ける

すれ違う人々は僕を見下ろす
たった一人僕に声をかけた
その人からは初夏の匂いがした

初夏の匂いは思い出と僕は云う
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