中原中也記念館に行った日 〜後編〜/服部 剛
湯田は温泉街なので、道を歩いていると数人で腰を降ろし足浴で
きる場所が何ヶ所もあった。記念館に近付くにつれて、「中也ビー
ル」という暖簾の文字が風に揺られている店をいくつか見かけた。
中原中也が生まれ育った生家跡に建てられたという記念館に着く
と、入口に立つ木の太い幹の傍らに「中原中也生誕之地」と刻まれ
た石碑があり、僕は立ち止まった。雨水の滴る生垣に中也の言葉が
展示されている細い通路を歩くと、自動ドアのガラスの向こうに、
帽子を被った中原中也の顔がぼんやりと浮かび、自動ドアが開くと、不可思議な澄んだ目線で宙を見つめる詩人のまなざしが、旅人の僕を迎えてくれた。(この建物の中に
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