五月の果樹園/A道化
 





ある五月
限りある少女の果樹園は
体中で太陽を吸い
体中で緑を吐きました


太陽へ、よりも、体へ
そう、太陽を忘れたときに最も太陽由来になる体へ、体へ、
の感嘆が、果実として溢れるのを
自ら頬張ったほんの一瞬間だけ
自ら飲み下したほんの一瞬間だけ
頬は、胸は、完全な
少女の果樹園でした


体を濡らした果汁から順に
柔らかに傷んでゆく、その肌の
その奥、ここに、それでも最初からずっと種は、
嗚呼、ここに、それでも最後までずっと種は、



見えぬものを信じる為に
あ、太陽、
ああ、緑、
ほら、また
五月です



2006.5.9.
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