海を翔ぶ翼 〜 少女と羊 〜/服部 剛
 
少女は長い間 
窓の外に広がる海を見ていた 
籠(かご)の中の鳥のように 

時折 
人知れぬ囀(さえず)りを唄っても 
聞こえるのは 
静かに響く潮騒ばかり 

( 浜辺にはもうひとりの少女がいつまでも立っている 

( 手が届くことのない水平線に
( やがて揺らめく夕陽は沈み
( 薄れた三日月は 
( 暮れ行く夜空に冴えてくる 

( 月の光をそそがれた 
( 浜辺の少女のからだは 
( 朧(おぼろ)な光を帯(お)び始め 

真っ暗になった部屋の中
いつか少女が踏んでしまった 
ひとりの羊が現れ

背後から 
うつむく少女の後ろ姿を 
黙ってみつめていた 

( 明け方 
( 水平線の上  
( 傾いた三日月が薄れる頃 

( 鳥籠の部屋から 
( 窓の外に広がる海へ 
( 届かない水平線に向かって 

海を翔(と)ぶ白い翼

羽ばたく少女 

明け方の空の向こうへ





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