風に誘われて/海月
 
社会人になり
今は汚れていない真新しい革靴
今は愚痴も殆ど入っていない鞄
春の匂いを香る風

自転車を漕ぐ
グルグルペタペタ
僕を追い抜いた学生さん
その瞬間に突風が吹いた気がした

蒲公英の綿毛が宙を舞う
スゥーと風が横切るように記憶が甦る

綿毛を耳に入れちゃ駄目だよ
鼓膜が破けるからね

そんな優しいおばあちゃん
小学六年生の時に死んでしまった
理解できる筈なのに理解せず
また帰ってくるような気がしたんだ

そう言えば墓参りなんて行ってないな
最後に行ったのも覚えていないや
たまには行ってみようと思った

簡単にお墓を掃除して
手を合わせて数年ぶりに報告した

僕は元気でやっています
心配しなくても大丈夫だよ
そんな僕を何時までも見ていて下さい

お線香の独特な煙が宙に流れ
風に誘われて消えた

また、来月来るよ
今度は梅雨の風に誘われて
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