小さなまばたき/松本 涼
 
午後の視界を横切る
さざ波にもよく似た面影の人

もうすっかり冷めて
固くなってしまった時間を
連れて来る

色彩を逃がした空の
真ん中で私は
強張りかけた呼吸を緩め

それに合わせるように
面影の人は静かに退いていく

私は名前を呼ばない

流れる時間へ漕ぎ出す合図に
小さなまばたきを其処に
ひとつ置く

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