カンバス/海月
 
部屋から見た景色
無機質なビルの壁
手を伸ばせば触れてしまう

南側の窓から見た景色
単調の中の複雑な構造
到底真似なんて出来ないだろう

カンバスに描いている
この部屋から見える景色
着ないままに終わり告げた
ウエディングドレスを背にしている

一生涯を誓う数日前
君は帰らぬ人に
僕が筆を走らすように
あっという間に曲線を描き堕ちた

抱いたままの欲望
未完成なままの性欲
寝かしつける理性

カンバスに描いているのは嘆きの姿
この部屋に彷徨う君の景色
無機質な都会に光が灯る
今日を終えていく準備をしているよう
明日へ繋ぐのは走らす筆
色彩を付けるのは絵の具

カンバスには未完成のままの絵が一つ
名前も線も何もないままの絵が一つ

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