姉のまなざし /服部 剛
 


ふと 目を覚ますと 
背後から誰かのまなざしが 
くたびれた僕を見ていた 

椅子(いす)を引いて 
立ち上がり 
部屋のドアを開いて 
階段を上がっていく 
姉の足音 

( 忘れた頃に 
( 遠い空の下にいる姉に
( 近況報告のメールを送っては 
( 風まかせにふらふら生きる弟を心配して 
( 少し苦い薬の言葉で 
( 返事が来ていた

僕がソファーでうたたねをする夜
背後からの姉のまなざしは 
産声をあげた時からからずっと見ていた 
かみさまのまなざしに
少し似ていた 

5歳の姪を連れて富山へ帰り
がらんとした姉の部屋のドアを開くと 
レースのカーテン越しに木漏れ日の落ちる白い机の上に 
数日前行ったディズニーランドのお土産(みやげ)の
クッキーの缶が置かれていた 

青い絨毯(じゅうたん)から 
まっすぐな糸を伸ばし 
ミッキーマウスの顔型の風船が 
部屋の真ん中に浮かんでいた 




戻る   Point(18)