姉のまなざし /服部 剛
ふと 目を覚ますと
背後から誰かのまなざしが
くたびれた僕を見ていた
椅子(いす)を引いて
立ち上がり
部屋のドアを開いて
階段を上がっていく
姉の足音
( 忘れた頃に
( 遠い空の下にいる姉に
( 近況報告のメールを送っては
( 風まかせにふらふら生きる弟を心配して
( 少し苦い薬の言葉で
( 返事が来ていた
僕がソファーでうたたねをする夜
背後からの姉のまなざしは
産声をあげた時からからずっと見ていた
かみさまのまなざしに
少し似ていた
5歳の姪を連れて富山へ帰り
がらんとした姉の部屋のドアを開くと
レースのカーテン越しに木漏れ日の落ちる白い机の上に
数日前行ったディズニーランドのお土産(みやげ)の
クッキーの缶が置かれていた
青い絨毯(じゅうたん)から
まっすぐな糸を伸ばし
ミッキーマウスの顔型の風船が
部屋の真ん中に浮かんでいた
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