他人の空/窪ワタル
夕空を染めたニッポニア・ニッポンを知らない
雲は刻々と変わり稜線が滲む頃
ニッポニア・ニッポンは茶の間へ来た
貨物船に乗せられてたった二羽だけ
ニッポニア・ニッポン達は知らない
自分がたった二羽のうちの一羽で
四つ目の名前を付けられ茶の間で見つめられるのを
テレビが佐渡島の夕空を映す
何も知らないニッポニア・ニッポンに重ねて
世界のニュースを映す
遠くの戦場の少女も
記憶喪失の政治家も
いじめっ子の少年Aも
四角い檻に捕らえられて
もう何処にも行けない
四角い檻の外には誰もいないのだ
気付かずにいる視線の向こうに
幾千億のニッポニア・ニッポンがいる
他人の空は深く広い
ニッポニア・ニッポンはもう羽ばたかない
鼻先にシチューの香りがする
もうすぐ母が ごはんよー と呼ぶのだ
戻る 編 削 Point(1)