喫茶店にて/純太
 
ぶ厚い雲からの薄明るさを浸透させ
豊潤な汚れにして無常の朽ちを顕す喫茶店だった

カウベルの響きにタンカー船を見る
シナのカウンターに
船頭がゆるりゆるりと漕ぐ
導きの小船は漂う

こんな灯火こそ
過去の自暴自棄を鯉幟にしてくれる

ゆらりゆらり帆のように

店の隅っこに座る男が
褐色の天井に漫画を映写していた
漫画からは聞き覚えのある蓄音機の調べ
漂う ただ漂う
心地よい沈鬱

暇な顔をした彼女に
源泉の湯気の話をされたマスターは
天井に写る漫画を見ながらサイフォンの中の
コーヒーの粉と湯と若気の過ちをスプーンで混ぜた
俺は次第に漫画なんかどうでもよくなって
カウンターの小船を動かす

俺の人生は目を覚ましているのか寝ているのか
霧こそタトヌマン
それは俺の自由であり仲間なのだと
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