夕暮れの並木道/服部 剛
 
春の陽射しに 
紅い花びらが開いてゆく 
美しさはあまりに脆(もろ)く 
我がものとして抱き寄せられずに
私は長い間眺めていた

今まで「手に入れたもの」はあったろうか 
遠い真夏に手を伸ばした酸味のある果実は 
皮だけを手元に残した幻

やがて秋を迎えると 
胸の空洞から浮かび上がる淋しさは
透明な雲となり
いつも傍(かたわ)らに浮いていた

夕暮れに照らされた
うっすらとした雲の輪郭(りんかく)を横目に 
私は往(ゆ)き過ぎる 

路面に枯葉の舞う 
秋の調べと共に 
無人の冬の夜へと続く 
夕暮れの並木道を 




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