シリウスの光る夜/服部 剛
 
立ち
白線から前へと身を乗り出しながら
なんとか踏み止まっている 

避けながら通り過ぎた私は 
教会の門に凭れて振り返る 

ある人影にうっすら浮かんだ顔は 
嘗(かつ)て「永訣の朝」という亡き妹に捧ぐ詩の言葉を
絞り落ちる涙と共にノートに綴った人の顔であった 



  再び 夜風は吹き 
  近くを流れる川のせせらぎが聞こえ 



白い足跡の上に立っていたある人影は 
いつの間にゆるやかな碧(あお)い炎の蕾(つぼみ)となり 
花開こうしていた 

凭れていた門を離れ 
ひとすじの夜道を歩む私は 
家の門に入る前に夜空を見上げる 

いつになく 
壊れそうな碧さで 
光の糸を放ち
瞬いていた 

シリウス 



 
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