小景 〜父と娘〜/服部 剛
 
少女は高い椅子(いす)に上ろうとしている 
小さいお尻をどっかり下ろすと 
食卓には色とりどりのご馳走とデザートが並んでいる 

食べ終えると飽きてしまう少女は 
物足りず他の何かをきょろきょろ探す 

かじりかけのパンと苺(いちご)のへたを皿に残し 
椅子から飛び降りて走り出す 
大小のマグカップを並べて紅茶を入れる父の背中をめがけ
「パパーーー」
と一直線の足音をたてて 

ふいに母の不在を思い出し
少女の瞳から涙があふれる

父の首に小さい両手を回し 
肩に震えるあごを乗せ 
ぴったりと抱かれた体は暖まる 

柔らかい髪を大きい手に撫でられ 
宙に浮いた足をぶらつかせる 

父は静かに瞳を閉じている




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