ゆうべの闇の恨み言/黒田康之
遠くに真っ赤な窓が見える
紫色の夕暮がだんだんと深い灰色になる時間に
遠くに見上げる団地の窓が
ただひとつ真っ赤に染まっている
僕とお前はその窓を見上げて
ゆっくりと二つのカゲボウシになる
あたりはひゅうひゅうと風が吹きぬけ
黒と灰色のカゲボウシになる
僕はお前の
モンシロチョウの鱗粉でできた手を握った
何もかもがスムーズでしっとりと暖かで
それはお前の手のひらそのままなのだが
僕は適当な言葉がまったく失われたまま
お前の鱗粉の手のひらに触れる
カゲボウシのお前からは濃密な肌の匂いと
それに似合うコロンの香りが漂ってくる
遥かに星が瞬くまで
僕
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