忘れもの/服部 剛
 
喫煙所に近づき
しゃがんで声をかける

「 調子はどう? 」

煙草(たばこ)をふかす R 婆(ばあ)ちゃんは眉をしかめ 

「 調子悪いねぇ〜・・・
  明日は歯医者
  あさってからは老人ホームにお泊りで 
  忙しくてやんなっちゃうよ 」 

再び煙草を咥(くわ)えようとした時 
少し麻痺(まひ)のある左の口元から 
ふいによだれがひとすじ流れ
思わず手にしたハンカチで隠す 

( R 婆ちゃんいいんだよ・・・
( 僕も小さい頃はご馳走(ちそう)を目の前に
( うっかりよだれを流したものさ 
( 大人になった今もうっかりよだれを垂(た)らしては
( 気付かぬうちにいつも誰かが拭いてくれているんだ 

頭痛がすると言い早退して
R 婆ちゃんがいなくなったソファーの空席は 
ガラス越しの陽だまり

忘れ物のハンカチ一枚 




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