春はあけぼの/落合朱美
息を
わたしたちは潜めて
東の空の彼方から
春がやって来るのを
待ち侘びていた
夜明けに
うすい紫の風が
わたしたちの
頭の上を撫でながら
通り抜けてゆくとき
あなたの息遣いを
耳もと近くに感じて
頬が熱くなった
もうすぐ
辛夷のつぼみが綻ぶよ
椋鳥がそう告げて
ほの紅い空に飛び立ち
わたしはまだ冷たい指先を
あなたに預けた
今日からの季節を
春と呼ぶことにしましょう
そうしてお昼には
わたしたちは陽溜りに
会いに行きましょう
頬を寄せて囁いたら
あなたの指先に力がこもり
わたしはほっと安堵して
もうすこしだけ
淡い微睡みに落ちてゆく
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