ぼろぞうきんの春/服部 剛
 
濁(にご)った泡水が浅く流れるどぶ川に
汚れたぼろぞうきんが一枚 
くしゃっと丸まったまま棄(す)てられていた 

ある時は
春の日が射す暖かい路上を 
恋人に会いにゆく青年の
軽快な足音を聞き 

ある時は 
空から星達が囁く冷えた夜に
恋に破れてうつむいたまま家路に着く青年の
とぼとぼ引きずる足音を聞き 

喜びにも悲しみにも寄り添うことなく 
路上を歩く人々の物語を羨(うらや)む上目使いを
ゆっくりと閉じて眠るように
ぼろぞうきんの一日は暮れてゆく 

( にごったどぶがわの
( かすかなせせらぎだけは
( いつもわたしとともにあり・・・ 

汚れ身を濁った泡水に浸(ひた)したまま 
ぼろぞうきんは独り 
春を待ち続ける 

今日も誰かの足音が通り過ぎる路上の上に
広がる真(ま)っ青(さお)な春の空から

桜の花びらが一枚

ひらひらと風にのり 

舞い降りてくるのを 






戻る   Point(18)