ぼろぞうきんの春/服部 剛
濁(にご)った泡水が浅く流れるどぶ川に
汚れたぼろぞうきんが一枚
くしゃっと丸まったまま棄(す)てられていた
ある時は
春の日が射す暖かい路上を
恋人に会いにゆく青年の
軽快な足音を聞き
ある時は
空から星達が囁く冷えた夜に
恋に破れてうつむいたまま家路に着く青年の
とぼとぼ引きずる足音を聞き
喜びにも悲しみにも寄り添うことなく
路上を歩く人々の物語を羨(うらや)む上目使いを
ゆっくりと閉じて眠るように
ぼろぞうきんの一日は暮れてゆく
( にごったどぶがわの
( かすかなせせらぎだけは
( いつもわたしとともにあり・・・
汚れ身を濁った泡水に浸(ひた)したまま
ぼろぞうきんは独り
春を待ち続ける
今日も誰かの足音が通り過ぎる路上の上に
広がる真(ま)っ青(さお)な春の空から
桜の花びらが一枚
ひらひらと風にのり
舞い降りてくるのを
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