手は そしてまた言葉は/黒田康之
手のひらに溺れかけた金魚を握って
少年の僕は旅立つ
朽ちかけた恋を語る老人の脇を抜けると
傍らには黄色い看板の中華料理屋があって
赤い文字で書かれた暖簾の奥からほとばしる いい匂いだ
手のひらに透き通った指の少女を握って
少年の僕は旅立つ
どこまでも透明でシルキーな空間の中を
何よりも美しい模様の血管が青々と走り回る
傍らにはすでに溶けかかったかかった器にたこ焼きを盛るオヤジがいて
路に滴るドロドロソースには夜空が映りこんでいる
少女と僕はいつも観覧車に乗ってこの街を見ていた
特急列車が止まるのを見ていた
野球場が駐車場になるのを見ていた
彼女の指の関節の皮膚は
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