シチュー/若原光彦
こんな寒い日は
どうしてもシチューが食べたくなる
早く帰ろう
家に帰ろう
どうしてこんなところにいるんだろう
まったく馬鹿みたいだ
足を踏まれるために都会へ来ている
糞を踏んだ足が
さらに糞を踏んだ足に踏まれる
夕日が夕日に焼かれ
木は木に遮られ
声は声によって届かず
闇の中では闇も見えない
ミートボール
ソーセージ
玉ねぎ
グリーンピース
ハートの型で抜いたニンジン
スプンですくって
口に含む
とろり飲み込む
胃に流し込む
こんな寒い日は
シチューのために生きている
ぐつぐつと煮込んで
湯気が立っている
早く帰ろう
家に帰ろう
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