曰く、人はもっと節度をもって死に接しなくてはならないと思うんだ/人間
 
19:00過ぎると 
失神したての飛蚊症の雪が降る。 
柳原魚屋は店終いをしだす。 
臙脂色のシャッターを半開きにして 
テナーとバリトンの混ざった真偽で愚痴る。 
痩せぎすの長靴履いたエドキリギリスが出てきて 
伝票に売れた魚の数を黒鍵盤だけで入念にチェックしていく。 
売れ残りの魚は全て道に放り投げられる。 
雨だろうが晴れだろうが許されない。 
ぺちん 
べち、たちん 
ぼたたつたたた 
っと散乱した生臭さがネオンでほのかに喜ばされる 
車が来る 
鯖の頭から尾までを一直線に轢く 
腐りかけた肉が飛び散る 
飛び散った肉には渇いた祈祷が宿る
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)