hot spring hotel/純太
宿に着いた俺は
すでに着物の中の女将の声と
上がり框の威風さに酔っていた
瞳で飲み干すだけの
美貌の狂い水を
今宵も仲間は口に入れ
その刹那の間借りを
起きても寝ても隆起させ
やがて動物園にした
抒情詩人の歌を入れた
ビニール袋をたばさみ
濡れた手拭いを肩に掛け
他の客など眼中なく
下弦の月明りを浸透させて
照り返す縁甲板に
気の毒だからそぞろ歩き
湯煙が誘う箱へ
源泉は
地球の嬉し悲しの涙の様
六体包み浸かる感慨の先で
俺に胎児の呼吸を蘇らせる
生まれて何日生きてるのだろうか・・・
湯船の中で抒情詩人の歌を読み
二つ目の感慨を・・・
あなたと道は同じだけれども
俺は才能も無く至って健康
羅紗紙に浮かべた
玩具の重さをかみしめながら
俺は明日からまた生きてゆくよ
貸切風呂でこんなことを
とてもとてもしたかった
箱から動物園へ帰る途中に
縁甲板の軋む音に気がついて
奴らの前で素直になるのも
悪くはないなと思い
ドアのノブに手をかけた
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