明日の朝も僕等は/服部 剛
ある友は移動中のバスで吊り革に今朝もぶら下がり
車窓が雨に濡れるのを見つめながら
渋滞で出勤時間の近づく腕時計を見て苛(いら)ついていた
もう一人の友は勤務先の病院で
昨日の眠れない夜のせいで睡魔に耐えながら
病人に昼食を食べさせていた
僕はといえば職場の便所で
最近なぜか身の入らないふぬけた面を鏡に映し
決められたことを行うロボットの一日を嘆(なげ)いていた
オフィスの窓から眺める眼下の街は
あちらこちらに夜の明かりが灯り始め
書類をデスクに投げ出した私と
隔離されたガラス窓の彼方には
ビルの谷間を染める夕空
薄暗い無数のビルの足元に
蟻(あり)の如き人々は歩み
窓辺から夕空へ視線を溶かすと
背後にいる同僚や上司の姿は
幻に透けてゆく
日が暮れたガラスの闇に
再び浮かび上がるふぬけた自画像
( 私は私の顔を描きなおしたい )
朝日が昇るごとに戻る振り出しの日々
明日も僕等はそれぞれの空の下
自らの影を引きずって
いつもの駅へ続く道を歩いてゆく
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