川には鹿の死体が森の一部のようにあった/服部聖一
 
雪崩れた跡もある谷すじを登って行くのだ

川には鹿の死体が、森の一部のようにあった
猪の足跡と鹿のフンのおちる雪のうえには道がない
つかまりどころもないような急な雪の斜面に
張り付くように足をかけ穴をあけ手をかけ登っていく
滑れば
落差20m程もある滝がなだれおちて
深いふかい淵には登りあがる縁がない
ほんとうに谷底である
本日の難所らしい

少しゆるやかなところでひと休みする
「なんか春が近いっていう感じやね」
冷たい雨がバラバラとおちている
もやがゆるく流れていく
「そうやな」
昨年死んだ友人のことは話さなかった

ブルーシートで雨よけを作り
あまごの刺
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