ラヂオ/maumi
 
夕と闇の間で 
海蛍の群れに導かれ 
滑空する機体の重さ 
地面へと伝わる 
伝わる振動は 
両の耳鳴りを増幅する 
アンプのように 
硝子の中で火花を散らす 
長い鉄塔についた 
時計針のあやふやな 
時の道標には 
些かの猶予も無しと 
指した針が教えてくれた 
さて 
何で行こうかと 
回りを見渡す書生 
浴衣の紐にしようか 
屋上に出やうか 
水辺にでも参ろうか 
セイサンカリーでも舐めようか 
あれこれ迷って針が回る 
オチヨさんに別れを言ってない 
それぢゃ駄目だ 
駄目なのだ 
最後の水を含ませて頂く唇は 
オチヨ殿と決めている 
百合のやう 
スラと佇む喫茶の白エプロン 
銀盆を持つ手に一杯の珈琲でさえ 
疎ましい重さ 
その麗しい唇に触れるまでは 
この参考書でも 
読み更けて 
明日に備えようかと 
思う午後 
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