夫婦の情景/服部 剛
薄明かりの店内に客は僕ひとり
喫茶店を営む初老の夫婦は
カウンターに並び夕食を食べている
時々片言(かたこと)の言葉を交わすふたり
幾十年を共にした歳月を物語る
並んだ背中の沈黙
「 なぜ、店の名はジャンヌ・ダルクなのですか? 」
「 十五年前にふたりでフランスへの旅をして
日曜の人気(ひとけ)無いルーアンの街を歩いた時
西陽に照らされた女性騎士が馬に跨(またが)る
ジャンヌ・ダルクの像を見たのよ 」
空気のように傍らにいる
夫婦の素朴な背中を見ていたら
一年前にひとり旅で訪れた
鳥羽の海に並ぶ夫婦岩(めおといわ)の姿が重なり
ふたりを結ぶ縄がうっすら、視えた。
静けさの漂う薄明かりの店内で
木目の壁に掛けられた額縁の絵から
凛々しく馬に跨る
ジャンヌ・ダルクの瞳が、少し笑った
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