雨に濡れた白鷺/服部 剛
二月の冷たい雨が降る午後
近所の喫茶店でお茶を飲みに
愛読書を鞄に入れ ビニール傘を差し
家の門を出て川沿いの道を歩いた
川の流れる辺(ほとり)の土に
一羽の白鷺(しらさぎ)が雨に濡れたまま立っていた
この腕を眼下へ伸ばし
胸に抱え 暖かい家の中へ入れてやり
タオルで濡れた白い毛並みを包みたかった
純白の羽にこの手は届く術(すべ)もなく
道の上で一時(ひととき)佇(たたず)んでいた
一瞬
じっと見つめる僕の瞳と
白鷺の小さく黒い瞳が合い
雨の降りそそぐ川の水面(みなも)の上を
広げた翼は羽ばたいて
遠い橋の下に身を潜(ひそ)めた白鷺は
独り静かに立っていた
川に背を向けた
僕も独り
喫茶店へと続く濡れた歩道を歩く
曇った空の彼方(かなた)から
ビニール傘へと落ちてくる
雨唄の音(ね)を聞きながら
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