幼年期の情景 〜アルバムの中に〜/服部 剛
に走り回った庭は不思議と狭くなっていた
アルバムの次のページを開くと
引っ越したばかりの我が家の庭で
若々しい親父と母ちゃんの下に並び
頭を撫でられている小さい姉と僕
遠い幼少の日々を越えて見つめ合う
大人になって濁(にご)った僕の瞳と
二人の無邪気に笑う瞳
アルバムを閉じてテーブルの上に置く
今頃
北国に嫁いだ姉は
銀世界の夜に灯る窓の明かりの中で
夫の仕事帰りを待ちながら頬杖ついて
美味しそうにご飯を食べる五歳の娘を
いつかの自分の姿を重ねるように眺めているだろう
実家の台所では
六十過ぎの母ちゃんが洗った茶碗を
隣で僕は拭き
一番大きい自分の茶碗を下にして
親父の・母ちゃんのと順に重ねる
二階で鼾(いびき)をかいて寝ている親父は
幼い僕を肩車していた頃の
夢を見ている
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