クリスマス後の世界/カワグチタケシ
2月の風は甘い匂いがするって
それが君と僕との間の唯一のコンセンサスだったのかもしれない
結局のところなにひとつ分かりあえなかったって訳じゃないし
僕等はみな愛された記憶だけに生かされてるばかりでもないし
ただその時俺の中で何かが石になった
俺は単なる断片の集積になってしまった
それに気付いたのはずっと後のことだった
死者は反論しないというが
それは多分、うそだ
現に君は(厳密に言えば君の記憶は)
いつだって僕に選択をうながしている
クリスマス後の荒涼とした世界を歩きながら
彼女は自分でピアスの穴を開けて
耳たぶを化膿させてしまった
彼女は自分で前髪
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