夜風の唄/服部 剛
 
夕暮れ
男は空を見ていた
世の何処(どこ)にも属(ぞく)さぬように
草原に独り立ちながら

只(ただ) 暁(あかつき)色に染められた雲が
宵闇に流れて姿を消してゆく様を

夜風に撫(な)でられる草々の唄(うた)を聞きながら
男は暗闇の草原に身を埋(うず)める 

いつか逢った女が光を帯びた白い体で夜の草原に現れた

男は立ち上がり
光に包まれた顔を見つめると
赤い瞳に涙を浮かべていた

周囲の草々が身を躍らせてざわめく暗闇の中で
男は光を帯びた白い体をいつまでも抱きしめていた
夜風の唄に 幻の女(ひと)が 消えるまで 




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