日常の抜け殻/野島せりか
外は雨が降っているね
上から下に向って
ビルの窓をぬらして夜景を沈める
あなたは喉仏を上下させて
私の胸の膨らみに
舌であぐらをかいている
生理前の微熱に足をからめて抱きつけば
下から上に向って
こめかみの両側から
私を高く立ち上らせる
体の輪郭を失うまでに
時間はざりざりと積り
ありったけの体液でころがされ
日常から抜け出せた気もしていた
でもね
「抱きたい」と言ったのはあなた
重なっても動いてばかりいるあなたは
前へも突き抜けられず
背中を抱きしめると
ちゃんといつもの日常が貼りついていた
帰る場所を知らないと
解放感も味わえないのね
私にだって柔らかい場所を選ぶ余裕は
もちろんあったけれど
安心してね
来て欲しい夜はやってこなくても
好きだとも言ってあげるから
あなたに抱かれたら
またしても声をあげてしまうだろうから
毛布をはね退けて出る埃は
実は2人の日常からの抜け殻の
砕けた粉だったりするのだ
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