穴の中 〜冬眠の詩〜/服部 剛
 
先輩が威勢良く梯子(はしご)を駆け上がり
天井近くの狭い頂(いただき)に腹を乗せ
扇子(せんす)を指に挟んだ両手・両足を広げて

「 鷹(たか)・・・! 」 

と叫んだ

後輩の僕も続いて梯子を駆け上がり
頂で羽ばたこうと翼を広げる

眼下の床の遠さに怯(ひる)み
思わず翼を閉じる

悔しくて
何度も駆け上がり
飛ぼうとして

ちぢんだ

飛べない鳥

十数回目でようやく頂に腹を固め
恐がりな瞳を前に向け
背筋をまっすぐに伸ばし
翼を広げた

一瞬

眼下の無人の客席から
幻の拍手が湧(わ)き起こる

視界の前方は青空
雲の絨毯(じゅうたん)の彼方(かなた)に顔を出し始める日の出


( 約束の言葉が記された一通の手紙
( 遥か頭上の空から舞い降りてくる 



目覚めると、冬の早朝。 
毛布の中でじっと春の訪れを待ち続ける僕は
きらめく木葉(このは)が喜び踊る麗(うらら)かな陽射しを夢に見る
土の中のモグラだった。 




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