夜の車窓/服部 剛
 
定食屋で
食後のお茶を飲んでいる友の後ろに掛かる
絵画の入った額縁(がくぶち)に
向かいの壁上の「非常口」の光は透けて映り
緑の人が白い出口へと駆(か)けている

友と語らいながら紛(まぎ)らわせる日々の心の重荷
黒煙の一塊(ひとかたまり)が胸の中から拭(ぬぐ)えない
 
定食屋を出た僕等は
日が暮れた商店街を抜けて交差点を駅へとわたる

横断歩道の真ん中に
過ぎゆく仕事帰りの人々にいつまでも手を振っている
着ぐるみのライオン

「下を向いていも、なんにもならないよな・・・」 

と一言(ひとこと)友に伝えた後
手を振ってから別れた僕等は
それぞれのホームへと階段を上った

間もなく来た電車に乗りドアに凭(もた)れ
走り出した車窓に 一瞬 通り過ぎたボクシングジム

繰り返されるボクサーのパンチを受けて
背後からもう一人の誰かに支えられ

ぶらさがる 薄汚れたサンドバック

加速する夜の車窓に いつまでも 揺れていた 




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