なつかしい痛み/八月のさかな
 

 いっしゅん、と呼ぶあいだに
 かのときは過ぎ去る

 きみもそう

 きみをみつけたそのとき
 きみはもういない


 
 夢を書き記すくせがついたよ
 ひとは忘れるいきものだから
 しあわせな記憶だけすくいあげて飾る
 そんな夢みたいな作業をいつだって
 かがんだ腰を痛がりながらしている



 いっしゅん、と呼ぶあいだに
 かのときは過ぎ去る

 一生のうちのわずかな時間を、
 そしてひょっとしたらいくばくかのこころを
 わたしはその呼び声に捧げた



 わたしにとっての きみ
 きみにとっての わたし



 いつかなつかしさに変わるだろう
 いとおしい記憶になるのだろう

 いまはただ そのときを待つだけだ
 いまはまだ鮮やかな痛みを
 この胸に抱いたまま



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